marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

寧楽美術館

f:id:abraxasm:20140626104107j:plain

奈良にある寧楽美術館で開催中の韓国陶磁の展覧会に行ってきた。場所は東大寺の近く。県庁地下にある駐車場に車を停めて徒歩五分くらいか。観光地とも思えぬくらいの閑静な場所に美術館はあった。 

高麗青磁が中心のこぢんまりとした展示だったが、青磁象嵌の名品がいくつかあって、目を楽しませてくれた。スタンプで型押しした部分に異なる色の陶土を嵌め込み、焼成することで模様を作り出すのが印花象嵌だが、その精緻な技術に舌を巻いた。 

ゆっくり見回った後、隣接する庭園を拝観した。若草山東大寺南大門を借景とした庭園は修学旅行生でにぎわう東大寺の隣にあるとは思えない別天地で、その静まり返った庭園には別の時間が流れていた。 

車に戻り、転害門近くにある天平倶楽部で昼食をとった。奈良に来ると、いつも寄る店だ。見栄えのよい小皿に技術を凝らした和食の粋が並ぶ。昼の膳は、量がほどよく、味もまた素晴らしい。その後、奈良公園を散歩しながら、奈良ホテルでお茶を愉しんだ。 

堀辰雄の『大和路』に登場する老舗ホテルのティー・ラウンジは、木の間越しに若草山が見渡せるガラス窓沿いにあり、朱塗りの欄干や苔生した台座がいかにも時代を感じさせるつくりだった。桜や楓の古木がガラス戸越しに新緑の色を誇っていたが、春や秋にはさぞ見事だろうと想像させられた。是非、またその頃訪れようと思った。残念なのは、グループ客のおしゃべりがいちばん遠くの席にまで響くことで、こればかりはどこへ行っても追いかけてくる。図書館ではないが、静かにしたい客もいる。声を抑える気配りがほしいところだ。