marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

「膳」の鰻どんぶり

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二階で本を読んでいると、「そろそろ行こうか?」と声がかかった。「なんだった?」と、訪ねると「MCC」と返事。毎月第三日曜日は、MCCのオフ会の日。「忘れてた」と、返事して急いで用意した。


薄曇りで、数日来のような夏日ではない。麻の上着を着てコペンの助手席に乗った。屋根は開けないで走った。会場にはすでに四人ほど集まっていた。いつものメンバーである。何をするでもなく、ただ、まったり過ごすのが身上で、昼までは、車の話をあれこれしゃべるだけ。


「さあ、今日はどこに連れて行ってくれるの?」と、のたりさんが口火を切った。昼ご飯の相談だ。八べえさんは、よっぽどうなぎが食べたいのか、前回から「膳」の話ばかりしている。宮川沿いの閑静なところで、味もいいというので皆も乗った。のたりさんのドライブコースとやらを走っていくことになった。


イオン明和店から斎宮の近くを抜け、多気に向かう。途中の道路標識に「Beef Road」と書いてあるのを見つけておかしくなった。いくら松阪牛が有名だからといって、「Beef Road」はないだろう。せめて「Cow」にしてほしかったなどと話していると、牧場の看板がいくつか目に入った。肉牛を育てているのだろう。となると、やはりここは「Beef Road」か、と妙に納得してしまった。


少し雨もよいだが、緑濃い田舎道をオープンで走るのは気持ちがいい。しかも久しぶりに四台のムカデ走行だ。道路わきに虫捕り網をもった小学生がふたり、眼を見開いて車列の通り過ぎるのを眺めていた。


宮川の河岸段丘から河川敷に降りるための私道が通っているらしく、車一台がやっとの細い砂利道が見えた。コペンだから大丈夫と進んでいくと、こんどは急カーブ。それも急坂になっていた。どうにか下りると店の前は人だかりの行列が。どうやら六組待ちらしい。ふだんなら別の店を探すだろうが、こんな田舎にほかに適当な店があるはずもなし。ただ、立ってしゃべっているだけならふだんの例会と同じ。というわけで、少し雨も降って来た中を小一時間ほど待った。


ようやく呼ばれて中に入ると、広間にいくつも並んだ席のうち、いちばん奥まった席に案内された。天井は白木の太い梁組ををそのまま見せた本格的なつくりで、民芸風の箪笥などが壁に寄せて置かれている。広い窓からは宮川が一望でき、なかなか落ち着いた風情だ。お品書きを眺めたところ、1400円から鰻どんぶりが食べられるというので、その「花」というメニューにした。うなぎの稚魚であるシラスの不足が災いして値が高騰してからというもの、とんとご無沙汰していたうなぎである。店でうなぎを食べるなどという贅沢は何年ぶりだろうか。


待つこと暫し。ようやく現れた鰻どんぶり「花」。蓋を取ると、濃い目のたれをからませたご飯にうなぎが三切れ、それに肝吸いと香の物がついていた。香の物は奈良漬が二切れに沢庵が二切れ。さっそくいただく。うなぎは皮がぱりっとした舌触りで、肉厚。たれも甘からず辛からず、絶妙の味。噂にたがわぬ旨さであった。


帰りは、他のメンバーと別れて大野木方面へ。本格的に降り出した雨の中、家路を急いだのであった。