marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『新編バベルの図書館3』ボルヘス篇

薄明の書斎に座しながら記憶に残る文章の回廊を逍遥し、世に隠れた幻想怪奇譚の名品を蒐集、バベルの名を冠したビブリオテカに保存し、好古の士の閲覧に供さんと企てられたこのシリーズ。第三巻目はイギリス編その二。ボルヘスの手が掬い上げた作家はスティ…

『遠い女』フリオ・コルタサル他

表題作「遠い女」を含むフリオ・コルタサル作五編は、ボルヘスに激賞されたといわれる最も早い時期に発表された短篇集『動物寓意譚』に収められている。ラプラタ河幻想文学という言葉があるが、アルゼンチンのブエノスアイレスは、ボルヘスやアドルフォ・ビ…

『海に投げこまれた瓶』フリオ・コルタサル

原題は所収の別の一篇のタイトルを採って『ずれた時間』であった。どういう理由でこの表題になったかは「訳者らの判断による」と解説にあるが、この短篇集の一つ前に発表された『愛しのグレンダ』という表題を持つ短篇集の存在が大きいのではないだろうか。…

『愛しのグレンダ』フリオ・コルタサル

M.C.エッシャーの絵を見たことがあるだろうか。泳ぐ魚の群れから視線を上げていくと、何やら一つ一つの輪郭が抽象的な形の中に溶解してゆく。なおも視線を上げてゆくと隣に同じような抽象的な形が目に入る。ちがっているのは今度はそれが鳥のようにみえ…

『この世の王国』アレホ・カルペンティエル

カリブ海に浮かぶサント・ドミンゴ島の西部に位置するハイチは、ラテン・アメリカ諸国で初めて独立を果たし、共和国となった国である。カリブの海賊といえば、ディズニー社製のアトラクションや映画を思い浮かべるかもしれないが、17世紀にはハイチ島を基地…

『遊戯の終り』フリオ・コルタサル

1956年発表というのだから、パリに来てまだ五年しかたっていない頃の作品である。掌編といってもいいほど短い作品も混じっているが、とてもとても習作などとは呼べない完成度を見せている。とはいえ、まだどこか初々しさを感じさせるコルタサルを知ることの…

『すべての火は火』フリオ・コルタサル

ラテン・アメリカ文学と一口にいっても北は北米西海岸に接するメキシコから南は南極に近いアルゼンチンまで、人種、気候はもとより歴史、文化が異なるのは当然のこと。それを一括りにしてしまうのには無理があると思うようになったのは、コルタサルを読むよ…

『通りすがりの男』フリオ・コルタサル

詩はアンソロジーで読め、と言ったのは誰だったか。一冊の詩集には同工異曲のものもあれば、駄作もまじる。アンソロジーなら名詩ばかりで外れがなく、ヴァラエティーに富んでいるからだろう。同じことが短篇集にもいえる。一人の作家の持つ様々な持ち味を一…