marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2013-01-01から1年間の記事一覧

『ドゥルーズの哲学原理』國分功一郎

当時、知的ジャーゴン扱いされていた『アンチ・オイディプス』を、東京に出張した際買い求め、宿舎で読み始めて当惑したのを思い出す。仮寝の伴になるような手合いではなかったからだ。それにも懲りずに、『千のプラトー』、『差異と反復』、『哲学とは何か…

『新編バベルの図書館6』

『新編バベルの図書館』も、この巻をもって完結する。第六巻は、「ラテンアメリカ・中国・アラビア編」。ラテンアメリカ編にはルゴーネスにはじまる「ラプラタ幻想文学」派を網羅したアルゼンチン短篇集と、そのルゴーネスとボルヘスから数編の短篇を収める…

『本屋図鑑』

[rakuten:book:16551841:image] 小さい頃、歯医者に行くのを嫌がって、よくだだをこねた。そんな時、帰りに本を買ってあげるからという条件つきで歯医者に行った記憶がある。歯医者のある通りから一本隣の古いアーケード街にある本屋で買ってもらったのは漫…

『孤児の物語Ⅱ』キャサリン・M・ヴァレンテ

本作「硬貨と香料の都にて」は、夜毎スルタンの庭園で女童が童子に語る『孤児の物語』二部作の後半、完結編にあたる。できるものなら第一巻から読まれることをお勧めする。未来のスルタンである童子は、姉の皇女ディナルザドの監視を逃れ、森に続く庭園で両…

第41章

金曜日の朝、スペンサーからホテルのバーで会いたいと電話があったが、部屋で会うことにした。込み入った話になりそうだった。マーロウは、スペンサーに同道してウェイド邸を訪れ夫人に会いたいと告げた。渋るスペンサーに、マーロウは、警察が夫人を疑って…

第40章

この章のマーロウは、ほぼ電話でことを済ませている。スーウェル・エンディコットは不在。次にかけたのはメンディー・メネンデスだった。マーロウは、メネンデスからレノックスが負傷し、捕虜になったのは英国だったことを聞き出す。それと同時に風紀係の刑…

第39章

検死審問は不発に終わった。事件は自殺という形で幕を閉じた。オールズは、その幕引きに納得がいかず、ポッター老の関与を疑い、マーロウに毒づくが、思い直してオフィスを訪れ、自分の胸のうちを語る。彼は、夫人を疑っていたが、動機が見つからないのだっ…

第38章

署長の待合室にはキャンディーが坐っていた。署長室には帰り支度をしたピーターセン署長がいたが、マーロウには構わず牧場に帰っていった。代わりにマーロウを尋問したのはヘルナンデスという名の警部だった。見掛け倒しの署長とちがい、警部はなかなかした…

第37章

かつての同僚バーニー・オールズは、今では郡警察殺人課の課長補佐になっていた。タフだが、根は人のいい男で、マーロウは心を許している。頭の切れそうな刑事が同行していて実況検分の結果を課長補佐に報告する。自殺の気配が濃厚だが、血中アルコール濃度…

第36章

空き瓶を片付けようと書斎に入ったマーロウは、ウェイドが死んでいるのを発見する。お茶の用意をして居間に戻ったアイリーンは、マーロウの様子から異変に気づく。そして、しばらくして訪れた警官に、マーロウの方を見もせず「夫はこの人に撃たれた」と、言…

第35章

何か鬱屈することがあるのだろう。ウェイドは、また酒をあおりはじめた。用があれば呼ぶように言い置き、作家を書斎に残したままマーロウはパティオに出た。湖上ではサーフ・ボードをひっぱったモーターボートが轟音を上げていた。キャンディもコックもいな…

第34章

マーロウは車でウェイド邸に向かう。冒頭、乾ききった土地の夏の真昼の情景が描かれる。埃っぽい未舗装路、舞う粉塵にまみれた潅木、疲れきってまどろむ馬、地面に座り新聞紙から何かを食べるメキシコ人。うだるような暑さに人も動物も生気を失っている。そ…

第33章

一週間後、ハリウッド界隈はスモッグに悩まされていた。ただ、マーロウの家のあるローレル・キャニオンあたりは何の理由によるものかは知らないが、いつもよく晴れて、空気は澄んでいた。そんなある日、ロジャー・ウェイドから電話があり、ランチを共にする…

第32章

ハーラン・ポッター老に呼ばれたマーロウはリンダ・ローリングといっしょにアイドル・ヴァレーにあるローリング邸に向かう。そこはフランスの貴族が女優の妻のために建てた奇妙な建築物だった。マーロウは、そこでポッター氏の現代文明に対する論説を拝聴す…

『アヴィニョン五重奏Ⅰムッシュー』ロレンス・ダレル

五つの小説はいつも誰かの死を告げる知らせからはじまるのだろうか。本作では、友人ピエールの死を知らされたブルースが思い出の地アヴィニョンに向かう。ピエール・ド・ノガレは、ブルース・ドレクセルの無二の親友にして、妻のシルヴィーはピエールの妹で…

『アヴィニョン五重奏Ⅱリヴィア』ロレンス・ダレル

ロレンス・ダレルには、『アレクサンドリア四重奏』という代表作がある。一冊ごとに独立した小説として読める四篇の小説が、それぞれのパートをつとめることで、四篇を重ね合わせて読むと、単独で読んだ時とはちがって、一段と厚みのある作品世界が現れてく…

『旅立つ理由』旦 敬介

パステルカラーにぬり分けられた家並みや、陽盛りの路地にできたわずかばかりの日陰の椅子で飲む生温かいミント茶、親しげにすり寄ってきては、何かとものを売りつけようとする少年たち。ピレネーをこえた異郷の旅がなつかしくよみがえってくる。町の書店で…

『孤児』ファン・ホセ・サエール

ホセ・ルイス・ブサニチェ著『アルゼンチンの歴史』(1959)のなかに、フランシスコ・デル・プエルトなる人物に関する次のような記述がある。 「一五一五年、ファン・ディアス・デ・ソリスの率いるインディアス探検船団に見習い水夫として雇われたこの男…

『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ

シンプルなストーリー展開で、小気味よく読ませる。『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』に始まる三部作でゆきつもどりつを繰り返す晦渋な語り口に翻弄された読者には信じられないような読みやすさ。ジョン・ル・カレの出世作である。この作品がス…

オーニング

うっとうしい梅雨が明けたと思ったら、すさまじい暑さが続く。テラスに当たる日差しの明るさと暑さに、日よけを考えた。以前に少し離れたホームセンターで目をつけておいた突っ張りオーニングだ。 近くの店に出向いたが、残念ながら置いていなかった。ドライ…

『リトル・ドラマー・ガール』ジョン・ル・カレ

スマイリー三部作をはじめとして、ル・カレの小説は再読を強要する。一読して分からないというのではない。時間や場所、登場人物の異なる複数のストーリーが並行して展開する小説は少なくないし、もっと大量の人物が交錯する小説も何度も読んできている。文…

『ナイト・マネジャー』ジョン・ル・カレ

テレビのモニタに空爆されるバクダッドの映像が流れるチューリヒの高級ホテル・マイスター・パレス。ナイト・マネジャーをつとめるジョナサン・パインは夜間、吹雪をおして到着する一団の到来を待ち受けている。一群を率いるのはリチャード・オンズロウ・ロ…

『パーフェクト・スパイ』ジョン・ル・カレ

たいていの小説は読み飽きて、手を出す気にもなれなくなったすれっからしの本読みが最後に手を出すのがスパイ小説。それもジョン・ル・カレの書くそれ。そんな気がしていた。主義主張や理想をふりかざして世の中を変革しようとしたり、どこまでも真理や真実…

『シングル&シングル』ジョン・ル・カレ

時はペレストロイカ時代。旧ソヴィエト連邦が瓦解し、すべての利権がなだれをうって新しい権力者の手の内に落ちようとしていた嵐のような時代だ。英国商社シングル&シングルの重役がトルコの丘の上で殺される場面で物語は幕を開ける。シングル社が契約して…

『スマイリーと仲間たち』ジョン・ル・カレ

ジョージ・スマイリーは、元英国情報部の現地指揮官。冷戦時には有能なスパイとして情報部を指揮していたが、世界情勢は緊張緩和(デタント)へと舵を切り、顔ぶれを一新したホワイト・ホールは情報戦も英米協調をうたい、かつてのような英国独自のスパイ網…

『カールシュタイン城夜話』フランティシェク・クプカ

丘の上に聳える灰色の城塞が眼に浮かんだ。坂を下りながらふりかえると、武骨な石造りの砦は翼を広げた鷲のように、谷に向かってその一部を中空にせり出していた。プラハ郊外の寒村に中世の姿を今にとどめるカレルシュタイン城。よく覚えている。張出し窓の…

『スクールボーイ閣下』ジョン・ル・カレ

村上春樹が「ぼくは三度読んで、そのたびに興奮した」と絶賛し、ル・カレの最高傑作としたのが本作『スクールボーイ閣下』(原題“ The Honourable Schoolboy ”)だ。前作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』に継ぐスマイリー長篇三部作の第二作。…

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ

二度読んだ。結果から言えば、ここは、と思わせる部分がないこともないが、全体的にはさほど読みづらさは感じなかった。読みづらさを感じる原因は、フラッシュバックを駆使した回想視点の導入による時制の交錯や、複数の視点人物の瞬時の転換といった原作者…

「膳」の鰻どんぶり

二階で本を読んでいると、「そろそろ行こうか?」と声がかかった。「なんだった?」と、訪ねると「MCC」と返事。毎月第三日曜日は、MCCのオフ会の日。「忘れてた」と、返事して急いで用意した。 薄曇りで、数日来のような夏日ではない。麻の上着を着て…

うなぎ丼

二階で本を読んでいると、「そろそろ行こうか?」と声がかかった。「なんだった?」と、訪ねると「MCC」と返事。毎月第三日曜日は、MCCのオフ会の日。「忘れてた」と、返事して急いで用意した。 薄曇りで、数日来のような夏日ではない。麻の上着を着て…