marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『ナイチンゲールは夜に歌う』ジョン・クロウリー

短篇集と呼ぶには、少し長めの二作を間に挿んで、天地創造神話をクロウリー流にアレンジした日本語版の表題作「ナイチンゲールは夜に歌う」と、作家が昼間のバーでアイデアを練る姿をスケッチしてみせる英語版表題作「ノヴェルティ」の四作で構成される、ク…

『リトル、ビッグ』ジョン・クロウリー

読み終えた後、それについて何か語りたくなるのではなく、いつまででも読んでいたくなる、そんな本である。物語の中から出たくなくなる。読み終えてしまえば、そこから立ち去らねばならない。いつまでも、この謎めいた屋敷や森や野原のなかで迷い子になって…

『エンジン・サマー』ジョン・クロウリー

大洪水の水が引かず、ノアの方舟が何世代にわたって航海を続けたと仮定しよう。ノアも息子たちも死に絶え、何千年も過ぎて陸地が見えたとき、そこに人々がいたとしたら、その人々には、ノアの子孫は地上の者とは思えなかったのではないだろうか。方舟には方…

日曜日、日盛りの芝生には誰もいない。

遷宮効果もうすれてきたのか、観光バスの数はめっきり減って、近頃では徴古館ももとの静けさをとりもどしたようだ。 育成中の芝生は、まだ生えそろってはいないが、リスや小鳥くらいは歩いていてもいいだろうに、日曜日というのに子ども連れの母親もいない。…

『屋根屋』村田喜代子

上手いタイトルをつけたものだ。上から読んでも下から読んでも、右から書いても左から書いても同じ漢字を使った最短の回文「屋根屋」である。もっとも、作者が名うてのストーリー・テラーとして知られる村田喜代子。この人の書くものならタイトルが何であっ…

『アルグン川の右岸』遅 子建

物語の舞台となっているのは、中国内モンゴル自治区とロシア国境を流れるアルグン川の東岸。かつて日本が満州国と呼んで支配していた土地で、中国最北端の地である。語り手はその地に長く暮らすエヴェンキ族の最後の酋長の妻で齢九十歳をこえる。エヴェンキ…

『ケンブリッジ帰りの文士 吉田健一』角地幸男

「序にかえて」を一読すれば分かるように、著者の吉田健一に寄せる思いは、単なる作家論の対象であることをはるかに超えている。初めてその文章に出会った時から実際にその謦咳に接するまで、まるで道なき広野を行く旅人が辿る先人の足跡のように、著者は吉…