marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『裏切りの晩餐』 オレン・スタインハウアー

これぞエスピオナージュと呼ぶにふさわしい一作である。作者はジョン・ル・カレの後継者と呼ばれているというから、その評価のされ方がどれくらいのものかが分かる。読後の印象をいえば、ル・カレから英国人臭さと、独特の文章のあやを取り去ったらこんな感…

『アックスマンのジャズ』 レイ・セレスティン

ハリケーンが迫りくるニューオーリンズの街を舞台に、連続殺人鬼を追う三組の探偵役の活躍を描く長篇ミステリ。時は1918年、ジャズ発祥の地であるニューオーリンズでは、アックスマンと名のる斧を使った殺人犯による連続殺人が起き、市民は恐怖に震えていた…

『黄金の少年、エメラルドの少女』 イーユン・リー

結局は人間なのだろう、どんな面白い小説を読んだとしても、読後に残る充たされたという感じをあたえてくれるのは。イーユン・リーの小説が他の作家のそれと特別に変わっているわけではない。強い影響を受けたとされるウィリアム・トレヴァーの作品や、エリ…

『私の名は紅』 オルハン・パムク

『わたしの名は紅』って題名に「ゴレンジャーかい」とつっこみたくなった。章が変わるたびに、話者が交代し、話者の一人称視点で物語が語り継がれてゆく。表題の「紅」というのは、色の赤のことである。主題を担っている細密画に使われる塗料の色であること…

『過ぎ去りし世界』 デニス・ルヘイン

ジョー・コグリンは、タンパ、その他で複数の会社を経営する実業家として知られている。慈善家としても知られ、第二次世界大戦下にあるアメリカを支援する募金集めのパーティーを開いたばかり。しかし、その実態はイタリア系のディオンをボスと仰ぐマフィア…

『千年の祈り』 イーユン・リー

イーユン・リーのデビュー短篇集。第一回フランク・オコナー国際短篇賞を受賞した、その完成度の高さに驚く。どれも読ませるが、読んでいて楽しいと感じられる作品が多いわけではない。むしろ苛酷な人生に目をそむけたくなることのほうが多いのだが、読み終…

『さまよう者たち』 イーユン・リー

原題は"The Vagrants”で、『さすらう者たち』は、ほぼ直訳である。ところで、その「さすらう者たち」は、いったい誰を指しているのだろう。というのも、どれも一筋縄ではいかない人物たちの中で、唯一好人物といっていい、ゴミ拾いや掃除を仕事としている華…

『無垢の博物館』上・下 オルハン・パムク

主人公のケマルは三十歳。父親から譲り受けた輸入会社の社長である。引退した大使の娘で美人で気立てのいい婚約者スィベルとの結婚も間近だ。そんなある日、買い物に寄った店で昔なじみと久しぶりに再会する。フュスンは遠縁にあたる娘で十八歳になったばか…