marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『遅い男』 J・M・クッツェー

自転車に乗っていたポール・レマンは車に衝突されて右脚の膝から下を失う。医師は義肢をつけるよう促すが、彼は承知しない。60歳を過ぎた今、新しいことに慣れたいとは思わないからだ。離婚し、子どももいないポールは、退院後、介護士の世話を受けなくては…

『人生の真実』 グレアム・ジョイス

英国はコヴェントリー郊外に暮らす女系一家の物語である。母親のマーサを中心に姉妹が七人のヴァイン家。その末娘キャシーが産んだ子を養子に出すところから話がはじまる。何か大事なことがあれば、姉妹たちとその夫がマーサの家に集まって会議を開くのが、…

『あなたの自伝、お書きします』 ミュリエル・スパーク

ミュリエル・スパークの最高傑作と言っていいだろう。毒のある口吻、媚びない生き方、友人とのさばけた交際ぶり、鋭い人間観察力、人生に対する肯定的な姿勢。主人公フラーの人物像は、よく知られる作家スパークのそれにぴったりと重なる。それもそのはず。…

『イエスの幼子時代』 J・M・クッツェー

タイトルだけ読めば、聖書に材を得た子ども向けの物語か、と勘ちがいしてしまいそうだが、いやいやとんでもない。イエスなんかこれっぽっちも出てこない。近未来の世界を舞台にしたディストピア小説の型を借りたこれは、人間と、人間が生きる社会について真…

『ホワイト・ジャズ』 ジェイムズ・エルロイ

「暗黒のLA四部作」第四作。シリーズ完結作は意外に手堅くまとめられていた。デイヴィッド・クラインというLA市警警部補の一人称限定視点で書かれていることもあって、これまでの作品のように、個性的な主人公が何人も登場し、複数の視点から事件をながめ、…

『LAコンフィデンシャル』上・下 ジェイムズ・エルロイ

ラメント。嘆き歌。結局これを聴きたいがために上下二巻の長丁場をひたすら耐えるのかもしれない。悪の巨魁に立ち向かい、力及ばず死んでいく者。死なないまでもボロボロになって都市を離れてゆく者。ともに戦った仲間の無念を思い、ひとり立ち尽くす未だ滅…