marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『光の犬』松家仁之

北海道の東部、サロマ湖や網走で知られる道東の小さな町、枝留(えだる)が舞台。そこに暮らす添島家三代の年代記である。その中には共に暮らす北海道犬も含まれる。ただ、犬の方は血筋は一つではない。一族が北海道に渡ったのは関東大震災に見舞われた夫婦…

『大いなる眠り』註解 第十六章(2)

《口裏を合わせておかなきゃいけないな?」私は言った。「たとえば、カーメンはここにいなかった。それがいちばん大事だ。彼女はここにいなかった。君が見たのは幻影だ」 「何と!」ブロディは鼻で笑った。「あんたがそうしろというのなら――」彼は片手の掌を…

『密告者』ファン・ガブリエル・バスケス

三年前から音信のなかった父から突然電話がかかってきた。心臓の具合が悪く、手術をするという。急いで病院に駆けつけた息子に父は詫びた。事の起こりは、三年前に父のしたことだ。ガブリエルと同じ名前の父は最高裁で雄弁術を講義するコロンビアの名士であ…

『大いなる眠り』註解 第十六章(1)

《私は折り返されたフレンチウィンドウのところへ行き、上部の小さく割れたガラスを調べた。カーメンの銃から出た銃弾は殴ったみたいにガラスを砕いていた。穴を作ってはいなかった。漆喰に、目を凝らせばわかるくらい小さな穴があった。私はカーテンで割れ…

『大いなる眠り』註解 第十五章(2)

《私はブロディのところまで行き、彼の腹に自動拳銃を突きつけ、彼のサイド・ポケットの中のコルトに手を伸ばした。私は今では目にした銃をすべて手にしていた。それらをポケットの中に詰め込んで、片手を彼の方に出した。 「もらおうか」 彼はうなずき、唇…

『アーダ』上・下 ウラジーミル・ナボコフ

<上・下巻併せて>舐めるようにしゃぶりつくすように読んだ。それでも、作者がこれでもか、というくらい用意したお楽しみや仕掛けの万分の一も見つけてはいないだろう。それでは楽しめないではないか、と思うかもしれない。ちがうのだ。一度読めばそれで二…

『大いなる眠り』註解 第十五章(1)

《彼はそれが気に入らなかった。下唇は歯の下に引っ込み、眉根は下がり眉山が尖った。顔全体に警戒感が走り、狡く卑しくなった。 ブザーは歌いやまなかった。私もそれは気に入らなかった。もしかして訪問者がエディ・マーズと彼の部下だったら、私はここにい…

『転生の魔』笠井潔

おや、と思って書棚から小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を取り出して、奥付を調べてみた。もちろん最新版の方ではない。桃源社版だ。昭和四十六年四月刊ということは事件が起きた前年だ。同シリーズの古本は函入だったが、手に入れたのはカバー装だった。作…