marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『大いなる眠り』第五章(1)

《大通りに戻った私は、ドラッグストアの電話ブースに入り、アーサー・グウィン・ガイガー氏の住所を探した。彼が住んでいたのはラヴァーン・テラス。ローレル・キャニオン・ブールバードから分かれた丘の中腹にある通りだ。物は試し、5セント硬貨を入れて番…

『ねじれた文字、ねじれた路』トム・フランクリン

ラザフォード家の娘の行方がわからなくなってから八日が過ぎて、ラリー・オットが家に帰ると、モンスターがなかで待ち構えていた。 いかにもミステリらしい謎めいた書き出しに興味は募るが、正直なところ犯人はすぐわかってしまう。なにしろ<おもな登場人物…

『物が落ちる音』ファン・ガブリエル・バスケス

カバが射殺された話から始まる。閉鎖されて久しい動物園から逃げ出したカバが畑を荒らすので撃たれた、という記事を読んだ「私」は、昔つきあいのあった男のことを思い出す。リカルド・ラベルデと会ったのはビリヤード場だった。当時、最優秀の成績で法学士…

『風の丘』カルミネ・アバーテ

丘は、海の手前で逆さにひっくり返された舟を連想させる湾曲した細長い形をしていて、スッラ(マメ科の多年草。フレンチハニーサックル)の緋色で一面彩られていた。そのまわりを、果樹、乳香樹の茂み、月桂樹、金雀枝(えにしだ)、ローズマリー、庭常(に…

『内面からの報告書』ポール・オースター

少し前に出た『冬の日誌』に続く自伝的な色彩の強い書物である。前作と同じように「君は」と二人称で語られる。『冬の日誌』が、小さい頃から今に至る身体の履歴について時間軸に沿って述べた物語であるのに対し、本書の体裁は少し異なっている。四部構成で…

『コスタグアナ秘史』ファン・ガブリエル・バスケス

フランスによる運河建設工事が破綻して混乱の極みにあるパナマ共和国。その北部にあってカリブ海に面した港町コロンからロンドンに逃れてきた男ホセ・アルタミラーノが語る物語。語りの中で時おり呼びかける可愛い盛りの娘エロイーサを独り故国に残して、何…

『アルファベット・ハウス』 ユッシ・エーズラ・オールスン

人気シリーズ「特捜部Q」で知られる北欧ミステリの雄、ユッシ・エーズラ・オールスンの初期の作品。嗜虐的な人物による陰湿で執拗ないじめと長い時間をおいて反撃可能になった被害者の苛烈な復讐という人気シリーズに繰り返し現れる主題は、作家活動初期段階…

『ふたつの海のあいだで』 カルミネ・アバーテ

詰め物をしたナス、辛味のペペロナータ(パプリカの炒め煮)、土鍋で煮込んだインゲン豆にソラ豆にヒヨコ豆、ラザーニャか、ヤギや仔ヒツジのミートソースで味付けした手打ちパスタ、シーラ山地特産のアニスで風味をつけたリコッタチーズ入りラヴィオリ。そ…

『特捜部Qー吊された少女ー』 ユッシ・エーズラ・オールスン

特捜部Qシリーズ第六作。きっかけはボーンホルム島に勤務する警官からカールにかかってきた一本の電話だった。退職を前に心残りの事件の再捜査を依頼するものだったが、相変わらずやる気のないカールはすげなくあしらう。翌日、定年退職を祝うパーティーの席…