marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『湖中の女』を訳す 第三章(1)

<burl walnut>というのは、ふし瘤のあるウォールナットのこと 【訳文】 アルテア・ストリートは、深い峡谷にV字の形に広がる土地のいちばん奥にあった。北は冷たく青い海岸線がマリブあたりの岬までのび、南はコースト・ハイウェイに沿って続く断崖の上に…

『湖中の女』を訳す 第二章(3)

五セントのはずの<nickel>が、二セントや十セントになる不思議 【訳文】 「他にもっと多くのことが起きているかもしれません」私は言った。「レイヴァリーと駆け落ちしたものの、喧嘩別れした。他の誰かと駆け落ちして電報は冗談だった。一人で家を出たか…

『湖中の女』を訳す 第二章(2)

<homewrecker>は女の尻を追いかける「泥棒猫」のこと 【訳文】 彼は鍵のかかった抽斗を開けるために椅子を後ろに退き、折り畳んだ紙片を取り出して渡してよこした。広げてみると電報用紙だった。電報は六月十四日 午前九時十九分にエルパソで打たれたもの…

『湖中の女』を訳す 第二章(1)

<call down>は「酷評する、けなす、こき下ろす」 【訳文】 それはプライベート・オフィスたるもの、そうあるべき部屋だった。奥行きがあり、ほの暗く、ひっそりして空調が効いていた。窓は閉まり、灰色のベネシアン・ブラインドを半ば閉じて、七月のぎらつ…

『湖中の女』を訳す。第一章(2)

<rear back>は「後退り」ではなく「後ろ脚で立つ」ことだ。 【訳文】 半時間がたち、煙草を三、四本吸い終わった頃、ミス・フロムセットの背後のドアが開き、二人の男が笑いながら後ろ向きに出てきた。三人目の男がドアを抑え、二人に調子を合わせていた。…