marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

公孫樹並木


退職して、運動不足が気になりだしたので、夏の間は日没前、秋からは昼食前に一時間ほど、ほぼ毎日決まったコースを歩いている。そうなると定点観測のようなもので、近頃では紅葉の色づき具合が観察対象になっている。
家の前の旧街道は、バス一台がやっとという幅の道に軒が迫り、紅葉どころのさわぎではない。行きかう車を避けながら高速道路の側道を横切り、昔は追剥や夜盗が出没したという牛谷坂を照らす二基の大きな常夜灯にさしかかると、ようやく木々のそよぎも耳に入るようになる。
観光客でにぎわう門前町の人込みを避け、御裳裾川に架かる橋に差し掛かると、対岸に見事な公孫樹の黄葉が目に入った。神宮工作所の銀杏並木だ。めずらしく門が開いているので中に入ろうとすると、
「後十分ほどで閉めます。車が出るので開けただけで、通行は原則禁止なので。」と、係員らしき青年に阻止された。
「昨日もテレヴィでここの写真が出てたんですが」と、水を向けると、事務所に声をかけてもらえば開けるということらしい。数十メートルはある通路の両側に今を盛りの銀杏並木が金色に輝き、その下の道は落ち葉が折り敷き、えもいわれぬ風情なのだが…。しばらく入り口から鑑賞しただけでそこを後にした。シーズンだけでも開門すればいいと思うのだが、向こうには向こうで都合もあるのだろう。公孫樹の黄葉だけなら、どこからでも見ることはできる。ただ、銀杏並木のアーチをくぐって歩く愉しみを味わえない。せっかくの観光資源なのにもったいないことだ。という訳で、真向かいにある公園の遊歩道を一周して復路に。
三連休初日ということもあり、最近有料化した市営駐車場は満車だった。来ようと思えば車に頼らず、いつでも歩いてこれるのは有り難い、と思いながら月読宮の前を通りかかると、ここの紅葉は枝の先の方から赤く染まりかけていた。もう少ししたら見頃か。近鉄の駅舎のあたりでしぐれかけた。コートのフードを頭にかぶり家路を急ぐ。薄日は差しているのにコートの肩にぱらぱらと雨音がかかる。歩き出してからちょうど一時間たった。