marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

アディダス・カントリー


履きなれた靴というのは何物にも代えがたい。まして、それがドライヴィング・シューズであった場合。車を運転しなかった頃には、デザート・ブーツやワーク・ブーツといった長靴から、モカシン、サンダルに至るまで、ずいぶんいろんな靴をはいてきたが、自分で運転するようになってからは、運転しよい靴を選ぶことが多くなった。

特に、コペンが来てからは峠を攻めたり、サーキットを走ったりする機会も増え、自然とペダル・ワークの邪魔をしない靴を常時履くようになった。そうはいっても、レーサーじゃあるまいし、本物のドライヴィング・シューズでは、少しオーバーだ。そんなとき、アディダス社のカントリーという靴が、ドライヴィング・シューズ代わりによく使われているという記事を何かで読んだ。早速スポーツ用品店で一足手に入れた。写真の手前にあるのがそれだ。もともとはクロス・カントリー仕様だが、踵の巻き上げが車の運転に具合がよく、好んで履くドライバーが多いらしい。

実際、靴幅の細いところもペダル・ワークに適しており、一度はまるとこれ以外の靴はないと思うようになった。しかし、ほぼ毎日履いているわけで、あちこち傷みが生じてくる。特に踵部分のスポンジが摩滅して、今にも剥がれそうになってきた。そこで、代わりの靴を探したのだが、アディダス社はカントリーの販売をやめたらしく、靴屋はおろかネットでも手に入れることが難しくなっていた。今にも壊れそうなカントリーを、だましだまし履いていたところ、先日、コペンのオフ会で、真新しいカントリーを履いている人を見た。「それ、どこにありました?」。ぶしつけながら訊いてみた。「競艇場のそばの○○○マートにありましたよ。ほかに青や赤のも。今ならまだあるかも」。定番はグリーンの三本線だが、カントリー2という、製作中止以後に作られた商品からは、その手の色も作られたようだ。問題はサイズだった。その人の靴は27センチ。当方は26センチ。今の男性の靴としては小さめかもしれない。カントリーは細めのデザインなので、ワンサイズ大き目を購入するようにという注意がネットに出ていた。もう一人のカントリー愛好者も入れて、しばらくの間、カントリー談義に花を咲かせていた。

二、三日して、愛車のエンジンオイルを交換するためにディーラー直営の工場を訪れた。そこから競艇場はすぐ近くだったので、まだあるか、店に寄ってみた。あるにはあったが、見本の一足だけで、あとは注文という。クレームを恐れてだろうか、以前のカントリーとはちがうことを教えてくれた。まず素材が本革から人工皮革になった。以前のように作ったのでは高額になってしまい、売れないのだそうだ。製作中止の理由はあっさりしたものだった。それでもよければ、というので、まずは試しに履いてみることにした。宅急便で自宅配送ができるそうなので、もう一度来なくてもいいのはありがたい。

待つこと二日。昨日やっととどいた。新しい靴を下ろすのに夜はいけない、と小さな頃から言われてきたのが染みついていて、今日まで待ったわけだ。新旧のカントリーを比較してみた。写真では判別しにくいが、三本線と交差するように入っていたステッチが消えている。こういうところは、微妙な差となって現れてくる気がする。さらに、一枚革でできていたタン(舌革)がスポンジ製のクッションの入った袋状のそれに変更されている。甲高の日本人にはうれしくない変更だ。細かなことを言えば、アウトソールのスポンジの色、グリーンと白が逆だ。インソールを埋め尽くしていたアディダス社のロゴ・マークも中央のひとつを残して消えた。

とはいえ、試し履きに散歩してみたが、フィット感は悪くなかった。足にタイトで、中でずれたりしないところが好印象だ。真っ白い運動靴そのもののイメージがカントリーにはあるのだが、もう少し履いて、皺がよったり、汚れが染みついたりしてこないと自分の体の一部になった気がしない。靴は毎日同じ靴を履くと長持ちしないのだが、しばらくは、こればかり履いて、汚しをかけたいと考えている。