marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

ハリス・ツイード

今年はどうしたことか、ハリス・ツイードが流行りらしい。テレビの司会者や若い男優までカントリー調できめている。毎年着ているツイードではあるが、誰も気にとめてはくれなかった。今年なら少しはわかってくれるかもしれない。というわけで、今日のお出かけにはハリス・ツイードのジャケットを着ることにした。しかし、問題がひとつある。長年着てきたジャケットのため、右袖の革製の包み釦が経年劣化を起こし、ちぎれてしまっている。包み釦は糸を通す部分が皮製のため、机で擦られ、捩れ、少しずつ弱っていくのだ。右袖の釦と、段返り中一つ掛けで使用頻度の高い三つ釦の真ん中のひとつがよく落ちる。替え釦もとうに使い果たした今では、ちがうジャケットの替え釦を使いまわしているのが現状だ。

そういえば、学生時代に買ったノーフォークジャケットやはり黒の包み釦だった。体形も変わり、細身のシルエットが窮屈になったため、ほとんど着なくなっている。クローゼットから引っ張り出してみると、なんと内ポケットに替え釦が当時のままに残っていた。早速、針と糸を用意して付け替える。少し色がちがうが大きさはぴったり同じサイズ。これでよし。ふだん履きのジーンズの上はダンガリー・シャツ。ドレス・ダウンもここまで来ると行きすぎだと思うが、今年はこんな気分。黒の中折れ帽子をかぶり、印度綿のスカーフを巻いて出来上がり。

県の図書館にリクエストしていたヘンリー・ジェイムズの三部作が市立図書館に届いたというメールが入っていた。便利になったものだ。実家に行く妻の車に乗せてもらって、いざ出発。図書館で受け取った分厚い三冊は助手席に放り込み、身軽になったところで実家に寄る妻と別れ、徒歩で帰途に着く。外宮参道は相変わらず人通りが多い。商工会議所前の横断歩道を渡ったところに、比較的最近パン屋ができた。ショウウインドウに美味そうなパンが並んでいる。駐車場がないので、いつもは車で前を通るだけだ。こういうときしか店に入れない。とりあえずお手並み拝見ということでバゲットをゲット。焼きたての香ばしい香りと、紙袋越しに温かみが伝わる。今年一番の冷え込み。寒い季節に焼きたてのバゲットを抱えて街を歩くのは心暖まる気分だ。

再び横断歩道を渡って銀行側の煉瓦敷きの道に出る。少し行くと、酒屋の店先に「さい味噌」が出ていた。浦九のさいみそは父のお気に入りの酒肴だったが、しげきやのそれに比べると少々辛口。袋に甘口の表示があるのに目が留まって、ついふらふらと店の中に。歩きだと、好きな店に入ることができる。今夜の酒のあてに買い求める。フランスパンとさい味噌を手に意気揚々と我が家に帰るのであった。