marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

『大いなる眠り』註解 第十九章(2)

《五分後、折り返して電話が鳴った。私は酒を飲み終わり、すっかり忘れていた夕食が食べられそうな気分になっていた。私は電話は放っておいて外に出た。帰ってきたときも鳴っていた。それは一定の間隔をおいて十二時半まで続いた。私は灯りを消し、窓を開け、一枚の紙で電話をくるんで寝た。スターンウッド一家にはうんざりだった。
 翌朝私はベーコン・エッグを食べながら三紙の朝刊をすべて読んだ。事件の記事は、ふつうの新聞記事のように真相に迫っていた――- 火星が土星に近いように。三紙とも、リドの桟橋で自殺した車の運転手、オーウェン・テイラーと、ローレル・キャニオンの異国風のバンガローの殺人事件とを結びつけていなかった。どれひとつとして、スターンウッド家、バーニー・オールズや私に言及していなかった。オーウェン・テイラーは「ある富裕な一家の運転手」だった。クロンジャガー部長は管轄下のハリウッド管区で起きた二件の殺人事件解決の手柄を独り占めしていた。事件についてはハリウッド大通りの書籍商ガイガーなる人物の裏稼業の儲けを巡る争いが原因とされていた。ブロディがガイガーを撃ったその仕返しにキャロル・ランドグレンがブロディを撃った。警察はキャロル・ランドグレンを拘留中。彼は自供した。彼には前科があった――おそらく高校時代のものと思われる。警察はまた重要参考人としてガイガーの秘書であるアグネス・ロゼルも拘留していた。
 なかなか良く書けていた。それを読めばクロンジャガー部長は、昨夜ガイガーが殺され、その約一時間後にブロディが殺されたのを、煙草に火をつける間に二件とも解決したという印象を受ける。テイラーの自殺は二面のトップ扱いだった。動力付き艀の甲板上に載せられたセダンの写真はナンバー・プレートが黒塗りされ、ステップの傍の甲板には布で覆われた何かが横たえられていた。オーウェン・テイラーは最近元気がなく、健康を損ねていたという。遺族がドゥビュークに住んでおり、遺体はそこに移送される。検死は行われない。》

「テイラーの自殺は二面のトップ扱いだった」は<The suicide of Tailor made Page One of SectionⅡ.>。両氏ともこれを「第二セクションの一面」と訳しているが、新聞の紙面に「第二セクション」というところはあるのだろうか?この部分は新聞記事を要約したような扱いのせいか、他に大きく異なるところはない。