marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

陽気に誘われて

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鈴鹿の森庭園」


外に出ることがあまりない。気分転換と称し、近所を半時間ばかり歩くのが習慣になっている。それでも季節の移り変わりには目が留まる。めっきり暖かくなってきて、どこの家の庭でも梅が見ごろだ。特に紅梅の色が目に鮮やかで、陽気のせいかそわそわしてくる。

県内の梅の名所はほぼ行きつくしたし、と思っていたところにTLで見事な枝垂れ梅の写真が流れて来た。鈴鹿の森庭園というところらしい。今まで知らなかったが、いつから知られるようになってきたのだろう。業者が管理しているらしく、駐車場は無料だが入園料が一人1500円必要という。

ものは試しと出かけてみた。家からだと高速に乗ると一時間程度だが、下道だと混雑ぐあいでは二倍かかる。幸いの上天気で、これならニコが昼寝してる間に帰って来られる、と下道で行くことにした。バイパスが通ったという話だったが、片道一車線ではかえって渋滞が起こる。昼前にやっと到着した。

駐車場には県外ナンバーの車が並び、入場券の販売所に行列ができていた。仮設トイレも設置され、土産物売り場まであった。よしずが張り巡らされ、ちょっとした見世物小屋のような外観だ。

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さほど、広くはないが、回遊路が巡らされ、順路に沿って歩いて行けば、途中の高台から鈴鹿の山を借景にした枝垂れ梅の花見が楽しめるようにできている。カメラを持った人が多く、格好の被写体になっていた。梅を背に記念写真を撮る人やら、ベンチでお弁当を広げる人やらいて、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。夜にはライトアップもされるらしい。

おなかもすいてきたので、庭園を出て菰野方面に走った。とろろ飯の美味い店がある。そこで腹ごしらえをすませたら、すぐ近くにある美術館で開催中の絵本画家の原画展を見る計画である。

イメージの魔術師 エロール・ル・カイン展

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エロール・ル・カインは、絵本作家として知られているが、挿絵画家だけでなく、アニメーション作家でもあるらしい。作品を保護するために光量を抑えた展示室には、原寸大の原画が並んでいた。大きさは、大判の絵本程度で、絵の緻密さに舌を巻いた。

シンガポール生まれで、アジアに詳しい画家らしく、オリエンタルなムードに溢れた絵が印象的だった。なかでも、狛犬のできた奇縁を物語る『フォーの小犬』が、とても気に入った。フォーとはブッダのことで、殺生禁断の場所でガゼルを殺し、追放された獅子の子が、泥棒を捕まえたことで許され、狛犬になった、という話。やんちゃな獅子の子がとても可愛く描けている。

ビアズリーはじめ、先人の画家や挿絵画家の手法を取り入れ、自分なりの世界に昇華させている。淡い色使いと繊細な線描が原画ならではのタッチで楽しめるのが何よりだ。最近では印刷技術もよくなってきたが、細密画めいた筆触を再現するところまではできていない。原画展に来られてよかった。