marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

『湖中の女』を訳す 第二十五章

<touched>は「気がふれた、頭が変だ」 【訳文】 ウェストモアは街外れを南北に走る通りだ。私は北に向かって車を走らせた。次の角で、もう使われていない都市間鉄道の線路をがたごとと横切り、一区画まるごと廃車置き場になっているブロックに入った。木製…

『湖中の女』を訳す 第二十四章

<play one's cards right>は「うまく立ち回りさえすれば」 【訳文】 ウェストモア・ストリートの家は、大きな家の後ろにある小さな木造の平屋だった。小さい方の家に番号表示はなかったが、手前の家のドアの横にステンシルで1618と型抜きがされ、裏に…

『湖中の女』を訳す 第二十三章(2)

<fussy about>は「(小さなことに)こだわる」という意味。 【訳文】 私はミセス・グレイソンを見た。手は動き続けていた。もう一ダースは靴下を繕い終えていた。グレイソンの長い骨ばった足で、靴下はすぐ傷むのだろう。「タリーに何が起きたんです? は…

『湖中の女』を訳す 第二十三章(1)

<mean business>は「(冗談ではなく)本気だ」という意味 【訳文】 ロスモア・アームズは大きな前庭を囲むように建つ、暗赤色の煉瓦造りの陰気な建物だった。フラシ天を張り廻らしたロビーの中には、静寂、鉢植えの植物、犬小屋みたいに大きな籠に入れられ…

『湖中の女を訳す』第二十二章

<bought myself a drink>が、「一人で一杯やる」という訳になる理由 【訳文】 ハリウッドに戻ってきて、オフィスに上がったのは夕暮れ時だった。ビルは空っぽで、廊下もしんとしていた。各室のドアは開いていて、中では真空掃除機や乾いたモップやはたきを…

『湖中の女』を訳す 第二十一章(2)

拳は握りしめられたのか、それとも解かれたのか? 【訳文】 私は言った。「私はロスアンジェルスのある実業家のために働いている。自分が噂の種になりたくなくて、私を雇ったわけだ。ひと月ほど前、彼の妻が家出した。そのあと、レイヴァリーと駆け落ちした…

『湖中の女』を訳す 第二十一章(1)

「大いなる熱意を込めて命令通りに行動した」とは何のことやら? 【訳文】 最初に入って来たのは、警官にしては小柄な、頬のこけた中年男で、いつも疲れているような表情をしていた。とがった鼻は少し片方に曲がっている。まるで何かを嗅ぎまわっているとき…

『湖中の女』を訳す 第二十章

<be+being+形容詞>は「いつもはちがうが、今は~している」 【訳文】 レイヴァリーの家の前に警察車両は停まっていなかった。歩道をうろつく者もなく、玄関扉を押し開けても、葉巻や煙草の煙の匂いはしなかった。窓に差していた陽が消え、蠅が一匹、片一…

『湖中の女を訳す』第十九章

<thumb in one's eye>は「悩み(頭痛)の種」 【訳文】 彼女はハンカチに目を止め、私を見て、鉛筆を手に取り、端に付いている消しゴムで小さな麻の布をいじった。「何がついてるの?」彼女は訊いた。「蠅捕りスプレー?」「サンダルウッドの一種、だと思…

『湖中の女を訳す』第十八章(2)

<touch>は、「殺し」の合言葉 【訳文】 彼女は少しばかり考えていた。途中で一度ちらっと私の方を見て、また目をそらした。「ミセス・アルモアに会ったのは二度だけ」彼女はゆっくり言った。「でも、あなたの質問には答えられると思う――すべてね。最後に会…

『湖中の女を訳す』第十八章(1)

<Come and see my etchings>は「ちょっと家に寄らないか」という誘い文句 【訳文】 アスレティック・クラブは、通りをはさんだ四つ辻の角にあった。トレロア・ビルディングから半ブロックほど行ったところだ。私は通りを北に横切って入口に向かった。以前…

『湖中の女を訳す』第十七章(2)

香水についても詳しくないと、私立探偵はつとまらない。 【訳文】 「ろくでなしめ」彼は声を低くした。「あいつはあれを見限ったんだろう」「そいつはどうかな」私は言った。「あなたにとっては動機が不充分だったんじゃ、文明人だからという理由でね。でも…

『湖中の女を訳す』第十七章(1)

< in a nice way>は「いい意味で」 【訳文】 アスレティック・クラブのベルボーイは三分後に戻ってきて、一緒に来るようにうなずいた。四階まで上がり、角を曲がったところで半開きのドアを私に示した。「左に折れたところです。できるだけお静かに。何人…

『湖中の女を訳す』第十六章

<ingenuous>は「純真な」という意味。まさか<genius>と誤読したのか? 【訳文】 階下の廊下は両端にドアがあり、中ほどにもドアが二つ並んでいた。一つはリネン・クローゼットで、もう一つには鍵がかかっていた。突き当たりまで行って予備の寝室を覗いて…

『湖中の女』を訳す 第十五章(2)

<knee crack>は膝の立てる間接音のこと 【訳文】 銃を取ろうと手を伸ばしたが、私の手は卵の殻のようにこわばって、今にも壊れてしまいそうだった。私は銃を受け取った。女はさも嫌そうに銃把に巻きついていた手袋の臭いを嗅いだ。そして、それまでと同じ…

『湖中の女』を訳す 第十五章(1)

<the dickens>は<the devil>と同じで「一体全体、どうして」 【訳文】 アルテア・ストリートの交差点を過ぎて交差道路に入り、渓谷の端で行き止まりになっている、歩道と白い木の柵に囲まれた半円形の駐車場に行き着いた。しばらくの間、車の中に座り、…

『湖中の女』を訳す 第十四章

<sit across the room from someone>は「向かい合って座る」とは限らない 【訳文】 冷え冷えとした緑色の水底で腕に死体を抱いている夢を見た。死体の長い金髪が私の目の前を漂い続けている。目が飛び出し、体が膨れ、腐った鱗がぬらぬら光る巨大な魚が、…

『湖中の女』を訳す 第十三章(2)

<tight>も<mean>も、金がからむと、少々意味が下卑る 【訳文】 男はほとんど踊るように入ってきて、かすかに薄笑いを浮かべながら私を見て立っていた。「飲むかい?」「ああ」彼は冷ややかに言った。自分でたっぷりとウィスキーを注ぎ、ちょっぴりジンジ…

『湖中の女』を訳す 第十三章(1)

<drink of water>は「飲料水」ではなく「長身で痩せた男」 【訳文】 十一時頃、平地に降りてきて、サン・バーナーディーノのプレスコットホテルの脇にある斜めに区切られた駐車場の一つに車を停めた。トランクからオーバーナイトバッグを取り出し、三歩ほ…

『湖中の女』を訳す 第十二章(2)

<ponderous>は「大きくて重い、動作がのっそりしている」 【訳文】 オフィスにたどり着いたら パットンは電話中で、ドアには錠が下りていた。話しが済むまで待たなければならなかった。しばらくすると電話を切り、錠を開けてくれた。 私は彼の脇を通り過ぎ…

『湖中の女』を訳す 第十二章(1)

<tissue paper>は「薄葉紙」。「ティッシュペーパー」ではない。 【訳文】 ゲートから三百ヤードほどのところで、去年の秋に落ちたオークの枯れ葉に覆われた細い小径が、大きな花崗岩の丸石の周りを回って消えていた。その道をたどって、露頭の石に沿って…

『湖中の女』を訳す 第十一章(3)

<feel bad>は「不愉快」ではなく「同情する、気の毒に思う」 【訳文】 「その女には会ったことがない」私は言った。「だから、何をするか見当もつかない。ビルは一年ほど前にリヴァーサイドのどこかで出会ったと言っていたが、それまでに長く込み入った物…

『湖中の女』を訳す 第十一章(2)

パットンが帽子をとって髪をくしゃくしゃにするのは考え事をするときだ 【訳文】 パットンは立ち上がり、小屋のドアの鍵を開けた。香ばしい松の匂いが部屋中に流れ込んできた。彼は外にぺっと吐き、また腰を下ろして、ステットソンの下のくすんだ茶色の髪を…

『湖中の女』を訳す 第十一章(1)

<the back>は「(椅子)の背」の部分。自分の背なら<on my back>だ 【訳文】 私道を塞ぐゲートには南京錠がかかっていた。二本の松の木の間にクライスラーを押込み、ゲートをよじ登って、忍び足で道の縁を歩いた。突然、足下に小さな湖の光が微かにきら…

おしっこが出ない

ぽつんと小さな血尿がシートに跡をつけていることはあっても、その後で大量のおしっこをすることも多いので、あまり気にはしていなかった。 カリカリも、ちゅーるもモリモリ食べているし、うんちも一日二回程する。 絶好調とは言わないまでも、まずまず年を…

『湖中の女』を訳す 第十章

<across the road>は「道を横切る」ではなく「道路の向こう側」 【訳文】 革製の犬の首輪をつけた、人馴れた牝鹿が目の前の道路の向こう側をうろついていた。その首筋のざらついた毛を軽く撫でてやり、電話局の中に入った。小さな机に向かって帳簿の整理を…

『湖中の女』を訳す 第九章(2)

<open up>には「(店を)開店する」という意味がある 【訳文】 私は横目で彼女を見た。ふわっとふくらませた茶色の髪の下から、思慮深げな黒い瞳がこちらを見ていた。夕闇がとてもゆっくりと迫りつつあった。それはほんのわずかな光の質の変化に過ぎなかっ…

『湖中の女』を訳す 第九章(1)

<politician>は「政治家」ではなく、自らの利に敏い「政治屋」のこと 【訳文】 インディアンヘッド・ホテルは新しくできたダンスホールの向かいにある、通りの角の褐色の建物だ。​その前に車を停め、トイレで顔と手を洗い、髪にからんだ松葉を櫛で梳きとっ…

『湖中の女』を訳す 第八章(2)

いったいビル・チェスはいつの間に腰を下ろしたのだろう? 【訳文】 「お巡りらしい言い草だ」ビル・チェスは吐き捨てるように言い、ズボンを穿き、また腰を下ろして靴を履き、シャツを羽織った。身支度を終えると、立ち上がって瓶に手を伸ばしてたっぷり飲…

『湖中の女』を訳す 第八章(1)

<a batch of mud pies>は「マッド・パイ一窯分」 【訳文】 彼は停車場から道路を隔てた向かい側の白い木造家屋の前で車を止めた。建物の中に入って、すぐ一人の男と出てきた。男は手斧とロープと一緒に後部座席に乗った。公用車が通りを戻って来たので、そ…