marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

第21章

いくらハードボイルド探偵小説といえども、毎回毎回が緊張した事件の連続では、つきあっている読者のほうが疲れてしまう。アントレの後にデザートがくるように、緊張の後には弛緩がほしい。第21章は、一仕事やり終えた次の日、マーロウのどうってことない一…

『ブルックリン』コルム・トビーン

時は1951年から2年。舞台はアイルランドの田舎町エニスコーシーとニューヨークのブルックリン。主人公は、エニスコーシーで母と姉と三人で暮らすアイリーシュ・レイシー。英国からの参戦要請を拒否し、第二次世界大戦に参戦しなかったアイルランドは、戦勝国…

『言葉を生きる』片岡義男

ちょっと変わったエッセイ集である。表題に『言葉を生きる』とあるように、自分と言葉のかかわりについて誕生から現在までを四つに区切り、通時的にまとめられている。自伝風エッセイと呼んでいいかもしれない。自伝風といっても、そこは片岡義男である。主…

『流れる』成瀬巳喜男

山田五十鈴が亡くなった。以下は、彼女の主演作、成瀬巳喜男監督作品『流れる』の映画評である。大女優の死を悼み餞としたい。大川端近くの芸者置屋が舞台。 とにかく女優陣が凄い顔ぶれ。実は栗島すみ子を見るのはこれが初めて。山田五十鈴の姉貴分の芸者と…

『燃焼のための習作』 堀江敏幸

いつかは書かれるべくして書かれた小説といえるかもしれない。同じ作者によって何年か前に書かれた異国の河岸に係留された舟を住まいとする青年の静謐な日常を記した『河岸忘日抄』なる小説がある。その年若い主人公には故国に「哲学的な」話題を話し合える…

第20章

マーロウは、ウェイドを車に乗せ、アイドルヴァレーに送り届ける。ヴァリンジャーは車の中のウェイドに「借りた金は必ず返すから」となおも食い下がる。そのヴァリンジャーにウェイドは言う。“Like hell you'd pay it back,”Waid said wearily.“You won't li…