marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『プードル・スプリングス物語』レイモンド・チャンドラー+ロバート・B・パーカー

愉しむために本を読んでいるはずなのに、いろいろな本を読んでいると、心がささくれ立って感じられることがある。そんなときは、お気に入りの作家の本を読んで、気晴らしをするに限る。それで、何冊か新しい作家の本を読むごとに、馴染みの作家の書いた本を…

『ベータ2のバラッド』サミュエル・R・ディレイニー他

主にニューウェイブSFの中篇を集めたアンソロジー。表題作になっている「ベータ2のバラッド」を書いているサミュエル・R・ディレイニーの短篇集『ドリフトグラス』を読んで、その才能に驚いたばかりなので同じシリーズ中の本書を手にとった。編者が若島正氏…

『パリ環状通り』パトリック・モディアノ

セーヌ・エ・マルヌ県にあるホテルのバーで四人の男女が酒を飲んでる。痩せて背の高い男がミュラーユ、そのそばにいる逞しい身体の男がマルシュレ、奥の方に立つ女が支配人のモー・ガラ。肘掛け椅子に座っているのが「私」の父だ。引出しから出てきた一枚の…

『ドリフトグラス』サミュエル・R・ディレイニー

四六版二段組で約六百ページの短篇集。本邦初訳や新訳を含むSF、ファンタジーのジャンルに属す短篇小説が十五篇、それに「あとがき」のあとに、唯一の中篇「エンパイア・スター」(新訳)が収められている。ディレイニーに馴染みのある読者なら収録順に読…

『遠い部屋、遠い奇跡』ダニヤール・ムイーヌッディーン

一九七〇年代終りから二十一世紀にかけて、パキスタンのパンジャーブ州に大農園を経営する地主ハールーニー家に関わる人々のそれぞれの人生を描いた連作短篇集。時代の移り変わりとともにそこに生きる人々の意識や生活が大きく様変わりしてゆく様子が、主人…

『東方綺譚』マルグリット・ユルスナール

『東方綺譚』は、ユルスナール若書きの書。アムステルダムに住まう老画家を描いた一篇を除く八篇が作者の生地であるベルギーからみて東方(オリエント)に位置する地方を舞台にするのがその名の由来。ブリュッセルの名家に生まれ、教養ある父と家庭教師によ…

『イヴォンヌの香り』パトリック・モディアノ

冬の夜更け、湖畔の温泉保養地を訪れた話者は、取り壊されたホテルや明かりの消えたショー・ウィンドウをながめ十二年という時の流れに思いを馳せる。季節外れで人影のない街路をぬけ、そこだけは賑わいを見せる駅前広場に足を向けたとき、列車を待つ金髪の…

『マイルス・デイヴィス「カインド・オブ・ブルー」創作術』アシュリー・カン

音楽ジャーナリストによる『カインド・オブ・ブルー』の、著者が言うところの「レコード」本。レコード史上に残る名盤『カインド・オブ・ブルー』がどのようにして作られたのかを追ったドキュメントである。中心になるのは、二回にわたって行われた録音の実…

『ある青春』パトリック・モディアノ

ソファで眠りかけていたところを起こされたルイは、娘の背丈が母と変わらないことに驚きを感じる。今夜は知り合って以来初めて妻オディールの三十五歳の誕生日を祝う会を山荘で開く。腕のギプスが外れたばかりの息子は招待客の子どもたちとはしゃぎまわって…

『古書収集家』グスタボ・ファベロン=パトリアウ

こらえ性がないからか、ついつい先を急いで読み進めてしまい、あるところまで来て、そうかこれは探偵小説だったのだと気がついた。そのころには、手がかりのつもりで作家が書き込んでおいた細部のあらかたは読み飛ばしており、しかたなく再読をする羽目とな…

『高い窓』レイモンド・チャンドラー

村上春樹の訳すチャンドラーも、これでもう五作目。さすがに、村上版マーロウも板について、今回の作品では全く違和感がない。これからは、このマーロウが定本になっていくのだろうな、などと少し感慨に耽りながら読み終わった。何度も映画化され、他の作家…

『黄金時代』ミハル・アイヴァス

世界をその中に収めた「一冊の本」という概念は、マラルメに限らず、すべての読書人にとって見果てぬ夢なのだろう。ここにもその夢にとり憑かれた一人の作家がいた。その本を見つけたのは、ある島を訪れた折のこと。その島とは文化人類学者らしい語り手が三…

『繊細な真実』ジョン・ル・カレ

風采も人柄も問題はないが、思いやり溢れる優しい妻と、冷静沈着で親思いの娘のほかに、これといった能力、職歴は持ち合わせていない外務省職員キットは退職を目前に控えていた。人妻との火遊びがやめられない外交官トビーは三十代。持ち前の器量と上司の推…