marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2014-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『フィルムノワール/黒色影片』矢作俊彦

十年ぶりの二村永爾の帰還である。『THE WRONG GOODBYE』の一件で神奈川県警を辞めた二村は再雇用プログラムの一環で嘱託となり、被害者支援対策室で詐欺被害者の愚痴を聞く毎日。そんな二村に、映画女優の桐郷映子のところに行くように命じたのは元上司で捜…

『失われた時のカフェで』パトリック・モディアノ

初めて読んだ小説のはずなのに、既視感(デジャヴュ)のように、見覚えのある光景がちらちらと仄見え、聞き覚えのある口ぶりが耳に懐かしく甦る。何ひとつ家具らしいもののないがらんとした一室は『さびしい宝石』、探偵が相棒の口癖を思い出すのは『暗いブ…

『1941年。パリの尋ね人』パトリック・モディアノ

一九四五年生まれの作家は、ある日、古い新聞「パリ・ソワール」紙を読んでいて、尋ね人の記事に目をとめる。日付は一九四一年十二月三十一日。十五歳の少女、ドラ・ブリュデールの失踪を告げるその記事に目を留めたのは、連絡先の両親の住所に覚えがあった…

『ストーナー』ジョン・ウィリアムズ

いい小説だ。読み終わって本を置いた後、じんわりと感動が胸のうちに高まってくる。一人の男が自分というものを理解し、折り合いをつけて死んでゆくまでの、身内をふくめる他者、そして世間との葛藤を、おしつけがましさのない抑制された筆致で、淡々と、し…

『トリュフォー最後のインタビュー』山田宏一/蓮實重彦

映画監督フランソワ・トリュフォーを相手に、日本における友人といってもいい山田宏一と仏文学者にして映画批評家蓮實重彦が行ったロング・インタビューがトリュフォー没後三十年を記念して、やっと単行本として刊行された。この本に目をとめる人は、おそら…

『八月の日曜日』パトリック・モディアノ

表紙を飾るリトグラフがプロムナード・デ・ザングレなのだろうか。棕櫚の並木が海岸通に沿って消失点に向かって遠ざかっていく。地中海から差す光を受けて立つ男が曳く長い影から見て朝早くだろう。人通りのまばらな避暑地のものさびれた風景がパトリック・…

『アヴィニョン五重奏Ⅴ』ロレンス・ダレル

五篇の小説が骰子の五の目のように組み合わさって作られた組曲のような小説、登場人物もちがえば、時系列もバラバラでいながら、鏡に映したように似ている組み合わせのカップルもいる。ほとんど同じ名なのに、少しだけちがう人物もいる。まだ小説を書いてい…

『ジェラルドのパーティ』ロバート・クーヴァー

主人公ジェラルドの家で開かれたパーティーの最中、ロスという女が殺される。ロスは男なら誰でも寝てみたくなるような相手で、事実多くの男と寝ていた。ジェラルドもその一人だ。夫のロジャーはロスに夢中で彼女が女優をやることに反対だった。パーティには…

『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』ロバート・クーヴァー

19XX年のある冬の晩、ひとりの老人がヴェネツィアのサンタ・ルチア駅に降り立つ。生涯を締めくくるにあたり、自伝的著作の最終章をまとめるため、人生の出発点ともいえる地を訪れ、自分を人間にしてくれた、あの人との関係を見つめなおす心積もりであった。…