marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『虚実妖怪百物語 破』 京極夏彦

これを読んでいるということは、「序」はもう読み終わっているということだろうか。そうだとしたら、前回までのあらすじは、省いてしまえるのだが。『虚実妖怪百物語 破』は、同じく『虚実妖怪百物語 序』の続きである。完結編『虚実妖怪百物語 急』を結びと…

『虚実妖怪百物語 序』 京極夏彦

のっけから加藤保憲登場ということは『帝都物語』、もしくは『妖怪大戦争』だろう、と見当はつけたものの、このノリの軽さは何だ?まあ、連載されていた雑誌『怪』については全くの無知なので、そこではこういうノリだったのだろうなあ、と推測するしかない…

『ジュリエット』 アリス・マンロー

ウィリアム・トレヴァー亡き後、未訳の新刊が出れば何を措いても読みたいと思えるのは、もうアリス・マンローのそれしかない。ノーベル賞受賞と邦訳作品が増えたかどうかが関係あるのかどうかは詳らかではないが、無関係とも思えない。そう考えると、ウィリ…

『アリバイ・アイク』 リング・ラードナー

話芸というものがある。早い話が噺家の語る落語のようなものだ。面白いにはちがいないが、そんなものは小説ではない、という声が聞こえてきそうだ。小説のどこがそんなに偉いのかは知らないが、なんとなくただ面白い話や、法螺話を喜んで聞く文化というのが…

『第三帝国』 ロベルト・ボラーニョ

物騒なタイトルだと思ったら、ボード・ゲームの名前だった。ウォー・ゲームというから、やはりナチス・ドイツがらみであることに変わりはない。主人公ウドは、ボード・ゲームのドイツ・チャンピオン。会社で働く傍ら雑誌にゲーム評などを書いている。次回の…

『能・狂言/説教節/曽根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵』 池澤夏樹=個人編集日本文学全集10

我が家から五十メートルばかし行ったところに「口の芝居跡」という碑が立っている。その昔、京・大阪の芝居小屋にかける前、全国から伊勢参りに来る旅人目当てに、ここで演じて評判が良ければ大受けまちがいなしとして、試演される芝居小屋だったと聞く。有…

『わかっていただけますかねえ』 ジム・シェパード

このタイトルはどうだろう?謙遜しているようでいて、とにかく自分はこう書いた、あとは貴方が理解できるかどうかだ、と言われているみたいで、ちょっと書き手である自分の責任を丸投げされたような気がする。表紙はテレシコワその人と思える微妙な笑顔を浮…

『エスカルゴ兄弟』 津原泰水

新聞の日曜版にある書評欄で見つけた。ふだんはあまり日本の小説を読まないので、どんな小説を書く人なのかも知らなかった。読んでみる気になったのは、作品のモチーフがエスカルゴと伊勢うどん、という点にある。エスカルゴの養殖については隣の市のことな…

『冬の夜ひとりの旅人が』 イタロ・カルヴィーノ

宮沢賢治に『注文の多い料理店』というよく知られた一篇がある。森のなかにある西洋料理店にやって来たハンター二人が、やれ、クリームをすり込めだの、金属でできたものを外せだのという小うるさい注文に、納得するべき理由を自分たちで見つけ出しながら店…

『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』 ジョイス・キャロル・オーツ

ノーベル文学賞候補の一人、ジョイス・キャロル・オーツの短篇集。ほぼ中篇といっていい表題作「とうもろこしの乙女」が、半分近くのぺージ数を占める。アンソロジーに入れると、スパイスの効いた作風がアンソロジーの風味を一段と高める役割をするジョイス…