marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2015-01-01から1年間の記事一覧

『マイルス・デイヴィス「カインド・オブ・ブルー」創作術』アシュリー・カン

音楽ジャーナリストによる『カインド・オブ・ブルー』の、著者が言うところの「レコード」本。レコード史上に残る名盤『カインド・オブ・ブルー』がどのようにして作られたのかを追ったドキュメントである。中心になるのは、二回にわたって行われた録音の実…

『ある青春』パトリック・モディアノ

ソファで眠りかけていたところを起こされたルイは、娘の背丈が母と変わらないことに驚きを感じる。今夜は知り合って以来初めて妻オディールの三十五歳の誕生日を祝う会を山荘で開く。腕のギプスが外れたばかりの息子は招待客の子どもたちとはしゃぎまわって…

『古書収集家』グスタボ・ファベロン=パトリアウ

こらえ性がないからか、ついつい先を急いで読み進めてしまい、あるところまで来て、そうかこれは探偵小説だったのだと気がついた。そのころには、手がかりのつもりで作家が書き込んでおいた細部のあらかたは読み飛ばしており、しかたなく再読をする羽目とな…

『高い窓』レイモンド・チャンドラー

村上春樹の訳すチャンドラーも、これでもう五作目。さすがに、村上版マーロウも板について、今回の作品では全く違和感がない。これからは、このマーロウが定本になっていくのだろうな、などと少し感慨に耽りながら読み終わった。何度も映画化され、他の作家…

『黄金時代』ミハル・アイヴァス

世界をその中に収めた「一冊の本」という概念は、マラルメに限らず、すべての読書人にとって見果てぬ夢なのだろう。ここにもその夢にとり憑かれた一人の作家がいた。その本を見つけたのは、ある島を訪れた折のこと。その島とは文化人類学者らしい語り手が三…

『繊細な真実』ジョン・ル・カレ

風采も人柄も問題はないが、思いやり溢れる優しい妻と、冷静沈着で親思いの娘のほかに、これといった能力、職歴は持ち合わせていない外務省職員キットは退職を目前に控えていた。人妻との火遊びがやめられない外交官トビーは三十代。持ち前の器量と上司の推…