大台ヶ原に行って来ました。三重県と奈良県の県境に位置する大台ヶ原山は日本百名山の一つ。山頂近くまでドライブウェイが通っているので、初心者にはうれしい山です。登山道もハイキングコースとして整備されているので、駐車場から約40分で最高峰の日出ヶ岳まで登ることができます。そこから一面のミヤコザサの中に立ち枯れたトウヒの並ぶ正木峠まで15分程度。山歩きの疲れを麓の入之波温泉でとってから帰ろうというのが今回の企画。
といっても、いつものように思い立ったが何とかで、準備を始めたのが10時をまわっていたから給油して高速に乗った頃には11時を過ぎていた。勢和多気で高速を下り、366号から166号に乗った。道の駅飯高で昼食をとった後、鷲家で旧道に入り169号に近道。入之波温泉への道をちょっと過ぎたあたりからドライブウェイに乗った。
はじめは鬱蒼とした林間道で仄暗く不安に感じるが、しばらく走ると視界が開けてくる。尾根筋を走る雲上ドライブを無料で味わえるありがたいコースである。車二台が対向できる広さを持つ道路幅といい、駐車場に付帯する施設といい至れり尽くせりの設備である。
駐車場に着いたあたりから雲行きが少しあやしくなってきていた。トイレをすませてから日出ヶ岳に向かうハイキングコースに足を踏み入れた。先客たちは本格的な装備の人も多く、短パンにTシャツ姿はちと不謹慎な感じもしたが、今回は子どもも歩く道しか行かないので目をつぶってもらうことにした。
鹿の食害を防止するために金網の張られたウラジロモミやトウヒの間に設けられた登山道はスニーカーで歩けるくらいに整備済み。小鳥の声を聞きながら1.9キロの道を歩いた。後半になると少し登りがきつくなるが、階段状になった歩道が最後まで続いているので、足もとに不安はない。
日出ヶ岳と正木峠への分かれ道には、海の見える展望台が設けられているが、この日はガスって来ていて視界はゼロ。日出ヶ岳を目の前にして相方はへばってしまった。ふだんの運動不足がたたって、心臓がバクバクするというので、相方をBCに残し単独登頂を目指す。
木の階段を上りはじめたところで前方に鹿を発見。写真に収める。後ろ足を揃えてぴょんぴょんと山を登っていく姿は愛らしい。害獣扱いされているのを知ってか知らずか、人を恐れる気配もない。
三角点を確認して降りかけると、下の方から相方の声が近づいてくる。大阪から来たことがまる分かりの中年登山客が「連れて来たったぞう。」と、声をかけてきた。一応礼を言ったものの、これでまた登りなおし。疲れがとれて元気になった妻はおじさんの相手をしながら展望台から鹿の親子を発見して上機嫌。しかし、話し好きなのは大阪人のDNAなのか、いつまでたっても下りてこない。「もう行くよ。」と、声をかけて下りはじめた。
天候はどんどん悪化してきていた。正木峠に向かう間も暗さは増すばかり。白木のトウヒが立ち並ぶ峠に出ると、下から這い登ってきたガスで笹原はすっかり覆われ幻想的な景色に。山の天気をどうこう言っても仕方がない。雲間に少し青空が望めるものの、雲とガスで前方の覚束ない正木峠の姿を何枚か写真に収めた。
来た道を引き返しかけると、先ほどの大阪のおじさんが「大蛇粠(だいじゃぐら)へ行かへんの?」と、聞く。「今日はもう遅いからまたにします。」と言うと、「人のおらんのがええのに。人に会いたないからこんな時間にくるんやんか。」と、言いながら峠の方へ。人に会いたくない人が、あんなに話しかけるか?と、突っ込みを入れたくなったが、出て来た言葉をぐっと呑みこんで、そのまますれちがった。
駐車場に戻り、車に乗ると、雨がぽつりぽつりとあたりはじめた。ドライブウェイを下りはじめたら雨脚が強くなってきた。見る見るうちに濁流が道を覆いタイヤが水しぶきを上げる。「大阪の人まだ下りてきてないやろなぁ?」と、心配になった。登山と言っても、ハイキングコース並みの扱いで入山を示す書類も書いていない。「合羽は持ってると言ってたけど。」と、妻。「テントなんか張ったことない。木の下で寝るんや。」とも話していたというから、山には慣れているのだろう。雨止みを待ってから下山することを祈って山を下りた。
入之波温泉に着いたら駐車場に車がない。今日はすいてるな、と思ったら「入浴は五時までだって。」と、妻が言う。時計ではすでに五時を少しまわっていた。日出ヶ岳であのおじさんにつかまってなかったら、という思いが一瞬頭を過ぎったが後の祭り。すごすごと引き返した。川上村あたりで、雷が光った。二三度、雷鳴を聞いた後、豪雨がやってきた。ワイパーが効かないふり方。今年の雨の降り方は半端じゃない。
結局、温泉は飯高の湯ということになった。お昼を同じレストランで食べたので、夕食の時間には間に合ったが、パスをした。昼に松花堂弁当など食べずに、三段わんこそばくらいにしておけばよかった。計画性がなく、いつも思いつきで行動するので、こういうことがよくある。おそらく、これから先も同じことを繰り返すのだろうな、と思いながら無料化で交通量の増えた高速道をひた走るのだった。