marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『大いなる眠り』註解 第二十章(2)

《「彼が出て行ったのは九月十六日のことだ」彼は言った。「それについて唯一つ大事なことは、運転手が休みの日で、午後遅くだったというのにリーガンが車を出すところを見た者がいないことだ。四日後、我々はサンセット・タワーズ近くのリッチなバンガロー…

『女王ロアーナ。神秘の炎』ウンベルト・エーコ

<上下巻併せての評>歳をとってきた人間がやろうとすることの一つに「自分史」を書くというのがある。記憶力も衰えてきて、思い出すことができるうちにまとめておきたくなるのだろう。特に遺しておくような値打ち物の過去もなければ、日記をつける習慣もな…

『大いなる眠り』註解 第二十章(1)

《失踪人課のグレゴリー警部は広い平机の上に私の名刺を置き、その角が机の角に正確に平行になるように置き直した。彼は首を傾げ、ぶつぶつ言いながら名刺を調べると、回転椅子の向きを変え、窓から半ブロック先の裁判所の縞になった最上階を見た。疲れた目…

『ソロ』ラーナー・ダスグプタ

『ソロ』という音楽用語に似つかわしく、小説は第一楽章「人生」、第二楽章「白昼夢」と題された二つの章で構成されている。この章につけられた名前の意味は、小説が終わりを迎えるころ意味を明らかにする。その意味を知った読者は、作者の巧妙な作為にはた…

『大いなる眠り』註解 第十九章(2)

《五分後、折り返して電話が鳴った。私は酒を飲み終わり、すっかり忘れていた夕食が食べられそうな気分になっていた。私は電話は放っておいて外に出た。帰ってきたときも鳴っていた。それは一定の間隔をおいて十二時半まで続いた。私は灯りを消し、窓を開け…

『大いなる眠り』註解 第十九章(1)

《車を停めて、ホバート・アームズの前まで歩いてきた時には十一時近かった。厚板ガラスのドアは十時に施錠されるので、私は鍵を取り出した。方形の退屈なロビーの中にいた男が鉢植えの椰子の傍に緑色の夕刊を置き、伸びた椰子の鉢の中に煙草の吸殻を弾き飛…

『水底の女』レイモンド・チャンドラー

原題は<The Lady in the Lake>。サー・ウォルター・スコットの叙事詩『湖上の美人』<The Lady of the Lake>をもじったもの。< Lady of the Lake>は、アーサー王伝説に登場する「湖の乙女」のことだ。この作品のもとになっている中篇「湖中の女」は、稲…