marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2014-01-01から1年間の記事一覧

『アヴィニョン五重奏Ⅲコンスタンス』ロレンス・ダレル

『アヴィニョン五重奏』は、文字通り五部作。「コンスタンスあるいは孤独の務め」は、その第三作、サイコロの目でいうところの真ん中にあたる作品である。それだけに本作は前二作に比べても一段と重厚さを増し、後に続く二部作を見通す要衝として、その重み…

『黒富士』柄澤 齊

『ロンド』の作者が満を持して書いた長篇第二作である。北斎の「赤富士」のように、墨一色で描かれた富士の絵をめぐるミステリかと思って読みはじめたのだったが、どうやら違っていたようだ。富士山を舞台にした伝奇ロマンとでもいえばいいのだろうか、国枝…

『バン、バン!はい死んだ』ミュリエル・スパーク

身も蓋もない書名に、少し引いてしまったが、あの『シンポジウム』を書いたミュリエル・スパークである。まず間違いはないだろうと思って読みはじめた。巻頭を飾るのは「ポートベロー・ロード」。過去と現在二つの時系列を平行させ、思春期を共に過ごした男…

『最後の審判の巨匠』レオ・ペルッツ

「ウロボロスの蛇」というものがある。自分の尾を呑み込もうとする蛇を環状に描いた図像で表され「永劫回帰」や「死と再生」などの象徴として幾多の民族、宗教によって用いられている。本書を読み終えて、そのまま最初のページを繰ろうとしかけ、第一章の標…

『誰よりも狙われた男』ジョン・ル・カレ

ル・カレは二度読め。一度目は話(ストーリー)の筋を追うために。二度目は話を存分に楽しむために。ストーリーを展開してゆく上で提供される人名、地名、所属庁名等々の情報量が尋常でなく、一度読んだだけでは、それを追うのに必死で、なかなか物語を味わ…

『夜毎に石の橋の下で』レオ・ペルッツ

一五八九年秋、プラハのユダヤ人街はペスト禍に見舞われていた。婚礼の席で余興を演じて金を稼いでいる二人組の芸人は仕事ができず、供え物の銅銭目当てに墓地に向かう。彼らはそこで顔見知りの少女の幽霊を目にし、高徳のラビの家を訪ねる。ラビに命じられ…