marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『さらば愛しき女よ』を読み比べる―第13章(5)

《見るたびに好ましくなる顔だ。目の覚めるようなブロンドなら掃いて捨てるほどいる。しかし、この娘の顔は見飽きるということのない顔だ。私はその顔に微笑んだ。「いいかい、アン。マリオット殺しはつまらんミスだ。今回のホールドアップの背後にいるギャ…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第13章(4)

《ブロンドだった。司祭がステンドグラスの窓を蹴って穴を開けたくなるような金髪だ。黒と白に見える外出着を着て、それにあった帽子をかぶっていた。お高くとまっているように見えるが、気になるほどではない。出遭ったが最後、相手を虜にせずには置かない…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第13章(3)

《彼女は煙草をもみ消した。口紅はついていなかった。「こうやってあなたを煩わせているのは、私としては警察とうまくやる方が手間が省けると言いたいだけ。昨夜言っておくべきだったわね。それで今朝、事件の担当者を探し当てて会いに行ってきた。初めは、…

大根もち

今日のお昼は大根もち。 この間から、妻が材料を用意していた。 私の仕事は大根のおろし番だ。ピーラーで皮をむいてからおろし始めた。 350グラムほどおろした。おろし金は銅製の本格的な物で、けっこう力がいる。 後はお願いをして、本を読んでいたらお…

北向きの窓

めずらしく、ニコが書斎にやってきた。 朝早くに目を覚まし、朝ご飯の催促か、トンと足音を立てて椅子から下り、私が起きるのをドアのところで待っていた。カーディガンをひっかけてドアまで行くと、いそいそと階段を下りて居間に入っていく。 家中のドアは…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第13章(2)

《白檀のあるかなきかの微香が私の前を通り過ぎた。立ち止まった女が見ていたのは五つの緑のファイリングケース、擦り切れた錆色の敷物、埃をかぶった家具、それにお世辞にも清潔とはいえないレース・カーテンだった。「電話に出る人が必要ね」彼女は言った…

陽気に誘われて

「鈴鹿の森庭園」 外に出ることがあまりない。気分転換と称し、近所を半時間ばかり歩くのが習慣になっている。それでも季節の移り変わりには目が留まる。めっきり暖かくなってきて、どこの家の庭でも梅が見ごろだ。特に紅梅の色が目に鮮やかで、陽気のせいか…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第13章(1)

13 《九時に目を覚まし、ブラック・コーヒーを三杯飲んだ。氷水を使って後頭部を洗い、アパートメントのドアに投げ入れられていた朝刊二紙に目を通した。ムース・マロイにまつわる二幕目の小さな記事があるにはあったが、ナルティの名前はなかった。リンゼイ…

Reborn

ずっと使っていなかったデジタル一眼。バッテリー切れで、充電がきかなくなっていた。新しいバッテリーを買って、カメラは動いたのだが、撮った写真をパソコンに取り込もうとしたら、今度はカード・リーダーがいうことを聞かない。 ドライバを更新してもだめ…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第12章(3)

《ランドールは首を振った。「もし、組織的な宝石強盗団なら、よほどのことでもない限り人は殺さない」彼は突然話を打ち切り、眼にどんよりした膜がかかった。ゆっくりと口を閉じ、固く結んだ。思いついたのだ。「ハイジャック」彼は言った。 私はうなずいた…