marginalia

読んだ本の話や一緒に暮らす猫のこと、それと趣味ではじめた翻訳の話など。

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

オートマタ

今日はパラミタミュージアムで開催中の「英国自動人形展オートマタ・アナログの美」を見てきた。ボタンがついていて、それを押すと人形たちが動き出す。ほとんどのものが動かすことができるように展示されているのでうれしくなった。中には、日本人がフグを…

『大いなる眠り』註解 第三十一章(1)

《執事が私の帽子を持って出てきた。私はそれを被りながら言った。 「将軍のことをどう思うね?」 「見かけより弱っておられません」 「もし見かけ通りなら、もう埋められる覚悟ができていそうだ。リーガンという男の何があんなに将軍の気を引いたのだろう?…

『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット

家の外にある便所でローザがビニール袋に自分の大便を落とす。ローザは袋の口を閉じて廊下の冷凍庫にそれをしまう。スカトロジー? いや違う。これには訳がある。ローザの夫は従弟の妻ジョアナと浮気をしているという噂がある。ローザは溜めておいた自分の大…

『大いなる眠り』註解 第三十章(4)

《「ところで、私に何の落ち度があるというんです? 一切を任されているノリスはガイガーが殺されてこの件は終わった、と考えたらしい。私はそう思わない。ガイガーの接触の仕方には首をひねったし、今でも考えている。私はシャーロック・ホームズでもファイ…

『文字渦』円城塔

中島敦に『文字禍』という短篇がある。よくもまあ同名の小説を出すものだ、とあきれていたが、よく見てみると偏が違っていた。『文字禍』は紀元前七世紀アッシリアのニネヴェで文字の霊の有無を研究する老博士ナブ・アヘ・エリバの話だ。同じ名の博士が本作…

『大いなる眠り』註解 第三十章(3)

《髭を剃り、服を着替え、ドアに向かった。それから引き返してカーメンの真珠貝の銃把ががついた小さなリヴォルヴァーをつかんでポケットに滑り込ませた。陽光は踊っているみたいに明るかった。二十分でスターンウッド邸に着き、通用門のアーチの下に車をと…

『大いなる眠り』註解 第三十章(2)

《グレゴリー警部はため息をついてねずみ色の髪をくしゃくしゃにした。 「もう一つ言っておきたいことがある」彼はほぼ穏やかと言っていい声で言った。 「君はいい男のようだ。だが、やり方が荒っぽ過ぎる。もし本当にスターンウッド家を助けたいと思ってい…

『大いなる眠り』註解 第三十章(1)

《次の日はまた太陽が輝いていた。 失踪人課のグレゴリー警部はオフィスの窓から裁判所の縞になった最上階を物憂げに眺めていた。雨のあとで裁判所は白く清潔だった。それからのっそりと回転椅子を回し、火傷痕のある親指でパイプに煙草を詰めながら浮かぬ顔…

『大いなる眠り』註解 第二十九章(2)

《しばらく沈黙が下りた。聞こえるのは雨と静かに響くエンジン音だけだった。それから家のドアがゆっくり開き、闇夜の中により深い闇ができた。人影が用心深く現れた。首の周りが白い。服の襟だ。女がポーチに出てきた。体を強張らせて、木彫りの女のようだ…